お気に入りの場所が、人生の地図を作る

忙しい日々の中で、ふと立ち止まりたくなる瞬間があります。
仕事を終えて疲れた帰り道。ふと夕暮れの空を見上げたときや少し冷たい風が頬をかすめたとき。
そんなときに思い出すのは、いつもの “あの場所”です。

私にとってのその場所は、近所にある小さな公園のベンチです。
季節ごとに違う顔を見せる木々、午後になるとやさしく傾く陽射し。
特別なことは何も起きませんが、そこに座るだけで不思議と心が落ち着きます。
昔よく友人と話したり、悩みごとを抱えたままぼんやり過ごしたり。
その公園は、私の中でいつの間にか“心の地図”のひとつになっていました。

駅前の喫茶店、帰省のたびに立ち寄る神社、通学路の坂道。
そこに行くと、昔の自分や大切な人の記憶が静かに蘇る。
誰にでも、そんな場所があるのではないでしょうか。

時代がどれだけ速く進んでも、人の心はなかなか追いつけません。
スマホの通知や情報の波にのまれて、いつのまにか一日が終わってしまう。
そんな時こそ、心の中の“お気に入りの場所”に帰ることが大切だと思うのです。
それは実際の空間でも、記憶の中にある景色でも構いません。
ほんの数分でもその場所を思い出すだけで、心の中に風が通り、呼吸が整います。

ここでふと考えるのが終活という言葉の意味です。
終活と聞くと“人生の終わりを準備する”と捉える方が多いかもしれません。
けれど本当は、“これまでの自分を大切にしながら、これからをどう生きたいかを見つめ直すこと”を意味しているのではないかと思います。
そう考えると、人生の地図を描くうえで“お気に入りの場所”は欠かせないしるしです。
その場所があることで、私たちはどこにいても自分を取り戻し、前に進むことができます。

今度の休日、少し時間をつくって、自分の心が落ち着く場所へ出かけてみませんか。
忙しさの中でも、そのひとときが「生きている今」を感じさせてくれるはずです。

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