俳優の中尾彬さんが亡くなり、生前に終活をしていたことが話題になっています。2018年には、ご夫婦で「終活夫婦」という本も出版されています。また最近では、小泉今日子さんが自分のお墓について考えているという記事があったり、映画『お終活 再春!人生ラプソディ』が話題になったり、書店に行けば終活をテーマにした実用書や小説がたくさん並んでいます。「終活」を意識する私たちにとって、参考になる情報が本当に増えてきました。
そもそも、「人生の終わりのための活動」という意味の造語「終活」は、いつから使われるようになったのでしょう。あらためて調べてみると、2009年『週刊朝日』で、葬儀相談員の市川愛さんの「現代終活事情」という連載記事からうまれたようです。その後、2010年の新語・流行語大賞にノミネートされ、2012年には新語・流行語大賞のトップテンに選ばれました。また、2012年に41歳で急逝した流通ジャーナリスト金子哲雄さんが、生前から自身の通夜や葬儀・告別式、お墓の準備など「完璧な終活」をしていたことは当時、大変話題になりました。
そして2024年現在、インターネットで「終活」と入力すると、膨大な情報が出てきます。
いつから始めれば? 何から始めれば? やることリスト? など、圧倒されるくらいさまざまな情報が押し寄せてきます。終活は自分の人生の棚卸し作業ともいいますが、「あれもこれもきっちりやらねば!」という義務感で四角四面に突き進むと、自分もまわりも疲れてしまうので、気持ちに余裕を持って向かいたいものですね。
そして、終活というとまず、お葬式の準備や身辺整理について話題がいきますが、それと同じくらいに大事なことが、もうひとつあるのではないかと思います。それは、こころのなかにある怒りや悲しみ、憎しみの感情を手放して心を軽くし、これからの人生を歩んでいくこと。人生の棚卸し作業ですから、こころのなかにずっとあったモヤモヤした感情も手放してしまいましょう。とはいえ、ずっと抱えていたのですから、言葉でいうほど簡単ではないとは思います。しかし「手放してスッキリしたい」と思えたその日から、きっとそちらの方向へ進んでいきます。家のなかの片付けをするように、こころのなかも、要るもの・要らないものを仕分けしてみましょう。思い出すとモヤモヤして、それにつられるように表情も硬くなるような思い出なら即刻処分です。嫌な思い出を紙に書き出して、それをゴミ箱に勢いよく捨ててしまう。あるいは、嫌な思い出をトイレに捨てて水に流すイメージを思い描く。もしできるなら、瞑想をしてみる。むずかしく考えずに目を瞑って息を整え、自分がきれいな光に包まれているイメージを描いてみる。一度でスッキリしなくても大丈夫です。何度もこの作業をしていくうちに、だんだん嫌な思い出が薄く透明になっているのに気づくかもしれません。重い荷物を手放すように、こころのなかの重く苦しい思い出も手放してしまいましょう。
そしてその作業をしながらでも、これからの自分の生き方を思い描いてみる。こころの終活を機に、本当はやりたかったことがあるのなら始めてみましょう。もうこんな年だから、いまさら何かを始めるなんて無理、そんなこと言わずに、思わずに。「今日という日は、残りの人生の最初の日である」。これは薬物中毒患者救済機関“シナノン”の創設者、チャールズ・ディードリッヒ氏の言葉で、1960年代のアメリカで流行した格言です。そうだ、そうだ、本当にそうだ!と勇気がわいてくる良い言葉ですよね。
また、特にやりたいことや目標が見つからないからといって「そんな自分はダメなのか」などと悲観しないでほしいと思います。やりたいことや目標というと、人生の長いスパンで叶えようとするキラキラしたものをイメージしてしまいますが、もっと身近なことってあると思います。たとえば、今日のお昼は何を食べましょうか? 駅前のあの食堂の定食が食べたいなあ、なんて頭に浮かんだらサクッと着替えて出かけてみる。読みたかった本があれば、図書館や本屋さんに行ったりして、お気に入りのコーヒーを飲みながらのんびり読書をする。友人に会いたいと思ったらこちらから連絡をして会っておしゃべりをしたり。人生にはハレとケがありますが、日常を穏やかに平和に過ごせるのは、とてつもなく幸せなこと。その幸せに気づけたら、人生って素晴らしいものだと思います。
でも、もし、自分をあともう少し成長させてみたいと思っていたら、「挑戦したいリスト」を作ってみてはいかがでしょう。今まで苦手だったゆえに避けていたことにあえてチャレンジする。それがいわゆる成功に終わらなくても、チャレンジをしたことで心が満たされるのではないかと思います。こころも終活をして、より明るく、これからも生きていきましょう。